※BC(バックカントリー)で遊ぶには十分な装備、知識、経験が必要です。安全に注意し、レベルに合ったフィールドで楽しみましょう。
知床・氷瀑探索&アイスクライミング
2016年2月15日

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思い返せば一昨年、谷口けいさんから「この冬知床の断崖にかかる滝を登りに行ってみたいと画策中。スキーでカムイワッカ方面からアプローチして、しかるべき場所で懸垂して氷を登りまくるっての、どう?」というお誘いをいただいたのが、このプロジェクトの始まりだった。
面白そうなことに対する実行力と、嗅覚はさすがの人だったなあ。
昨年の様子はこちら

訃報を聞いたのは、昨年見つけた大氷瀑、今年こそは登りに行こうと計画していたまさに最中だった。予約してくれていた飛行機は、そのまま残っていた。けいさんが引き合わせてくれたこの氷瀑、今年やらなくては、きっと未登のまま終わってしまうだろう。それはすごい心残りになる気がした。そうして、残ったメンバー全員で行くことはできなかったけど、けいさんの一番のパートナーだった和田淳二さんと、プロジェクト完遂のため、再び知床に向かうことになった。

■コース日程:
2/15:岩尾別ゲート(16:00)-岩尾別川沿いベースキャンプ
2/16:ベースキャンプ(7:30)-234mピーク横ABC設置(10:30)-ルート工作後ABCへ(16:30)
2/17:ABC(6:30)-大氷瀑下(7:30)-登攀終了(12:30)-FIX回収後ABC(15:30)-ABC撤収後ベースキャンプ(18:30)
2/18:レスト
2/19:ベースキャンプ(7:00)-ABC再設置(9:30)-アプローチの尾根下降開始(11:00)-海岸(11:30)-ペセパキの氷瀑下(12:10)-登攀終了(13:00)-ABC帰着(14:30)
2/20:ABC発(7:30)-ベースキャンプ荷物撤収(9:30)-岩尾別ゲート(11:00)

■レポート:相川 写真:相川、和田




【五湖の大氷瀑】
■アプローチ
234.5mピークから北に派生する尾根を下降。途中30mほどの垂壁が出てくるので、退路を残すためにはここにロープをFIXする必要がある。
垂壁より下部も海岸まで降りてしまうと、滝へのトラバースが難しいため、尾根上をある程度下降したのち立木より氷瀑下の小さな浜に50m懸垂する。
FIX用に40m以上、50m以上の2本のロープを用意するとよい。

■登攀
右側の弱点を突いていくルートが『Kei’s Gift』。4ピッチ 175m WI5+。
ルートはいくらでも取ることができ、下部で中央や左のラインを狙うと、より難易度は上がるだろう。
60mダブルロープを2本使用。スクリューは16本用意して、最大14本使用。


【ペセパキの氷瀑】
■アプローチ
225mピークの西側の湾状地形を下降。中央にある顕著な尾根を下るのがよい。
尾根の傾斜が強くなったところで、西側に懸垂すると、左手に氷瀑が見える。懸垂箇所も登り返しは問題なく可能な程度。

■登攀
30mWI4+。スクリューは終了点用を含めて8本使用。もう少し多いと安心。
3日の日程で、無理なくこの2つの滝を登って帰ってくることが可能だろう。




昨年の経験をもとに、考えた戦略のポイントは3つ。
1つは、移動にスキーを使うこと。昨年ラッセルの連続で単純な移動に、非常な労力を費やした。ここを楽にすることでかなり時間の余裕は生まれるだろう。
2つ目はターゲットのすぐ近くにABCを置くこと。
3つ目は、退路をしっかりと確保すること。周囲を厳しい断崖に囲まれ、海にダイレクトに落ちるこの滝、アクセスするには懸垂で降りるしかないが、氷の状態が悪く取りつけなかったときなど、退路を断たれてしまう。それだけは避けなくてはならない。

■2/15
初日は移動と買い出しでほとんど時間を取られ、午後遅くにスタート。重荷を引いてアプローチし、水の取りやすい適地にベースキャンプを設置する。
■2/16
この日は偵察とABC設営に費やし、アプローチの検討とルート工作、退路を確保するためのロープをFIXする予定だ。
1泊の食料とABC装備、登攀用具を背負ってベースキャンプを出発。
天気は上々。毎日がラッセル地獄だった昨年と比較して雪も少なく、移動もスキーを持ってきたので楽だ。場所も分かっているのでアプローチはスムーズにいき、ターゲットのすぐ上の海を望む崖の上にABCを設置する。
昨年も下降した尾根を降りていく。途中に30mほどの垂壁にFIXロープを残す。ここ以外は、慎重に行動すればロープは不要な程度。
氷瀑を望めるポイントまで来た。暖冬の今年、氷結が心配だったが大氷瀑は健在だった。当初はこの場所から下降できるかともくろんでいたが、60mロープで降りてみると全然届いていない。スケールの大きさに距離感が狂っているようだ。ここで、2本ロープを残すわけにいかないので、さてどうするかふと横を見ると、尾根上の同じくらいの高さのところに一本立木が見えた。
いったんユマーリングして登り返し、見えていた立木を目指す。立木までのアクセスは懸垂したが、そこは登り返せる程度だ。この木からは50mで小さな海岸に届くことを確認。本日の偵察は終了だ。
途中の垂壁に残したフィックスロープをユマーリング。
■2/17
3日目。明るくなると同時にスタート。
ルート工作済みのため、1時間ほどでスムーズに下降し、ついに滝の前に降り立つ。
「でかいな~」
高さ150m、幅40mはあるだろうか。単一の滝として、ここまで大きなものを日本国内では知らない。
ただ、その大きさに圧倒されつつも、技術的には何とかなりそうな範囲だ。
1ピッチ目 40m WI3 和田リード。
緩傾斜の「裾」のようなところだが、それだけでロープスケール40mはあった。途中で「ロープ半分」とコールしたら、「まじかっ?」という反応。距離感がおかしくなる。
1ピッチ目をフォローする。ややぐさぐさな所もあるが、おおむね快適。
2ピッチ目。30m WI4+ 相川リード。
広大な氷の中を直上。傾斜は80度~バーティカル。頭上をつらら状の氷に抑えられたところでハンギングビレイ。
2ピッチ目終了点から。海にダイレクトに落ちているのが美しくも、恐ろしくもある。
3ピッチ目 50m WI5+ 和田リード。
頭上のつらら状の氷はなかなか厳しそう。弱点を突くように左上するルートを選択。とはいえ、傾斜はほぼバーティカルだ。
トラバースも混じり、氷は堅くも脆く大きな氷塊を落としながらの登攀で、なかなか恐ろしい。最後10mほどでようやく傾斜が緩む。
4ピッチ目 55m WI4 相川リード。
大きく段々になった氷を登っていく。
写真では分かりにくいが、途中、クラゲ状の不思議な造形の氷が見られた。
20mほどで傾斜はだいぶ緩み、最後は雪壁混じりの氷で容易だ。
4ピッチ、175m、WI5+のルートでリード&フォローすべてノーテンの理想的なスタイルで完登することができた。
最後は簡単なルンゼをランニングコンテで詰める。
今回の登攀ルート。ルート名は、けいさんにちなんで『Kei’s Gift』としたい。今回は右寄りに弱点を突いているが、左ベタで登れば、2ピッチ目から50m超のバーティカル、中央を行けばさらに厳しいつらら状の氷を越えていくことができるだろう。強い方どうぞ。ルートはいくらでも取れそうだ。
■2/19
翌2/18は一日ベースキャンプでレスト。
最大の目標が3日目で達成できたので、残りの日程は更なる未知の氷瀑の探索、あわよくば登攀に費やすことにした。
これまで、あちこち偵察した結果、知床で氷瀑ができる条件がだんだんわかってきた。
キーワードは「流程の短い沢状地形」と「北向きの断崖」
その観点で目星をつけた一つ北の湾状地形に探索に行くことにした。
再び1泊の装備でベースをスタート。五湖を渡って、海岸を目指す。
同じ場所にカミナドームを張る。今年は流氷が大きく遅れていて、2日前ははるか沖に見えるのみだったが、この日は海岸近くにちらほら見ることができた。
この辺りは、続いていた断崖が緩む「ペセパキ」と言われる辺り。これまでほど地形も急峻ではない。湾状地形の中央にある顕著な尾根を下降していく。最後、急に落ち込むあたりで左手のルンゼを懸垂。ここは、登り返しは可能で、フィックスするほどではないだろう。
先に降りた和田さんから、「あったよ~!」と声上がる。
なかなか立派な氷瀑がすぐ左手にかかっていた。ただ、海岸に降りられる貴重な場所なので、いったん海まで降りることにした。
海岸に転がる丸石が、氷でコーティングされていておいしそう。せっかくなので海水にタッチ。
海岸を一通り偵察してみたが、大きな氷はその滝だけだった。登り返して滝に向かう。
近づいてみると高さ30mくらいだろうか。大氷瀑と比べるともちろん小ぶりだが、なかなか見栄えのする滝だ。
登ってみても、氷もしっかりしていて変化のある形状で面白かった。
30m WI4+くらいだ。
午後早くには、ABCに帰着。このまま撤収しても帰れそうだったが、天気も良いので最後の知床ステイをのんびり楽しむ。
キツツキのドラミング音が聞こえたので見に行くと、クマゲラを見ることができた。今回のようなプランでは厳しかったけれど、動物を撮るのなら、長い望遠レンズを持って訪れたいなあ。
その夜は月明かりがきれいだった。

下山後、知床自然センターや知床博物館を訪れ、情報収集。


非常に丁寧に対応して頂き、この二つの氷瀑が、滝として認識されていなかったこと、特に名前のないことを確認できた。
(定着するかどうかはさておき)自由に通称をつけていいのでは?と言って頂いたので、大きいほうを「五湖の大氷瀑」小さいほうを「ペセパキの氷瀑」としたいと思う。
大氷瀑のルート名は、和田さんにけいさんにちなんだ名前を付けてもらうことにした。純粋にアイスクライミングの対象としても、非常に素晴らしいものなので、ぜひ訪れてほしい。




■■■ 使用したウエア&ギア ■■■


トップ
L1:アクティブスキンロングスリーブ
L2:メリノスピンサーモフーディ
L3:開発中L3
L4:ニュウモラップフーディ
L5:エバーブレスアクロジャケット

ボトム
L1:アクティブスキンタイツ
L2:メリノスピンサーモタイツ
L3:ポリゴン2ULパンツ
L5:エバーブレスアクロパンツ

ソックス
スキンメッシュソックス
メリノスピンソックスEXP

カミナドーム2+開発中スノーフライ(ABC用)