※BC(バックカントリー)で遊ぶには十分な装備、知識、経験が必要です。安全に注意し、レベルに合ったフィールドで楽しみましょう。
知床・氷瀑探訪行
2015年3月1日

「知床の断崖に掛かるかもしれない、氷瀑を探して登りに行きませんか?」というお誘いを受けたのが昨年の秋。
シーカヤックで一周したときの記憶を思い出してみると、ウトロから半島の北に向かって20㎞以上もずっと断崖が続いていて、そこかしこから染み出しが小さな滝になっていたのが思い出される。あれが凍ったら、素晴らしいアイスワールドになっているかも!
ヘタをすればはるばる知床まで来て、何も見つからずラッセルのみになる可能性もあるこんなアホな企画に4人のクライマーが集まり、知床の断崖に掛かる未知の氷瀑を開拓して登ろう!というプロジェクトが実現した。
(レポート:相川 写真:相川、谷口、和田)
どんな作戦で行こう?
やはり、温泉つきのベースキャンプを置いて、そこから日帰りで偵察&登攀を繰り返すのがいいかな。と初めはカムイワッカ付近にベースを置くことを考えたが冷静に考えると遠すぎる…
代わりに冬でも入れるという話の岩尾別の温泉にベースを張ることにした。
3月1日の朝、羽田空港に集まり、女満別に飛ぶ。重量制限ぎりぎりの預け荷物を何とか大目に見てもらい、しょっぱなからドタバタでの出発だ。
買い出しをしながら宇登呂に向かい、知床自然センターに車を置いて、そりを引きながら岩尾別を目指す。あたりがすっかり暗くなるころ、無事ベースキャンプにつくことができた。温泉も見つかり、水が取れることも確認。快適なベース生活になりそうだ。
3月2日
この日は暴風雪の予報。
今日のクライミングは難しそうだが、とりあえず地形の把握とトレース付けに出発する。北海道にしては気温が高く、すごく濡れる雪でラッセルも重い!
断崖の近くに出る効率の良いルートを見つけ、この日の偵察は終わりにした。
夜に聞いたラジオで、この日は北海道全域で暴風雪警報が出ていて、飛行機も、鉄道も、道路も全部止まっていたことを知る。宇登呂は観測史上最大の積雪になったとか。
3月3日
どうも、この日が唯一の好天らしいことが分かっていた。この日のうちにある程度目処をつけたい。
昨日つけたトレースは「ないよりまし」程度で再びのラッセル。途中キタキツネの親子を見る。
五湖の断崖付近をまず下降してみることにした。
とはいえ、このあたりの断崖は、標高差200m程度あってうかつに降りると退路を断たれることになりかねない。地形図から海岸近くまで降りられそうなところを見つけて降りることにした。この日は見渡す限り流氷が接岸していた。初めて見る流氷に感動する。
クライミング装備を整え、目星をつけた尾根を下降する。
海まで50mほどの高さのところまで下降できそうで、ここからなら、断崖の概要を見ることができるはずだ。
おそらく、こんなところに立ち入った人はいないのではないか、という尾根上に立つ。左に見渡す限りの流氷、右に五湖の断崖の絶景だ。
しかし、断崖に期待したほどの氷瀑は掛かっていなかった。
わかったのは、夏に見られた滲み出しは、一部凍ってはいたが、トップアウトできるような形状にはならないこと。そして、五湖の断崖は氷がつながらない限りは登れるような代物ではないということ。
落胆半分、でも素晴らしい景色に出会えた感動も半分。登り返す僕らの頭上を一羽のオオワシがかすめて飛んで行った。
少し作戦を変えなくては。時間的に、本日の再度の下降とクライミングは難しいだろう。地形図から可能性の高そうなところにあたりを付け、そこまでのトレース付けを今日のうちにやっておくことにする。
地形は複雑で、見通しも聞かず現在地の把握が難しい。エゾシカの群れがつけたトレースを、ありがたく使わせてもらう。
ベースへの帰り道、苦しいラッセルだが知床連山の素晴らしい眺めが癒してくれた。
最後はナイトスノーハイクに。そこかしこでシマフクロウと思われる鳴き声が聞こえる。自然の中で見たことがない生き物の中で、一番出会ってみたい動物だ。暗闇に目を凝らすが、見つけることは出来なかった。
3月4日
今日、明日と再び風雪。しかし、昼くらいまでなんとか持ちそうという予報だ。最後のチャンスになるかもしれない。クライミングはできなくても、一度は断崖を下降して海までは降りよう。
昨日付けたトレースを速攻で辿り、断崖の上へ。すでに風雪になりつつあり、天気の崩れが早いのが気に掛かるが、目星をつけていたラインの下降に入る。
3ピッチ懸垂したところで、ハングした壁に阻まれ、このピッチのみフィックス。ようやく狙っていた場所が見えるところまで来れた。
あった。とてつもなく大きな氷瀑が!
さらにワンピッチ懸垂して、雪壁をクライムダウン。海岸に降りて氷瀑の正面に立つ。これは大きい。
いろんなものが大きくてスケール感が狂うが、岩壁の規模を考えたら、高さ150m、巾20~30mはあるだろう。ようやく見つけた宝物に歓声を上げる。
もっとも、今日は流氷が離岸し、取り付きは海。加えて先週の高温のせいか、中央付近で巨大なクラックが走っていた。実際に登るのは、次の機会にしよう。
空中ユマーリング後、2ピッチロープを伸ばし、安全圏へ。
行きにつけたトレースは消えかかっていた。
暗闇と風雪の中、消えそうなトレースを何とかたどってベースに戻った。
3月5日
引き続き風雪。再びフルラッセルして海に出る余力は残っていなかった。
ベースキャンプで宴会と温泉、雪見酒を楽しみ、来年の再訪について話し合う。
もっとも、温泉は強烈に熱く、流路を変えてみたり、雪を大量に投入してようやく適温に。なかなかエクストリームな温泉であった。
ラジオによると、この日も警報レベルの大雪。雪崩で国道が分断し、羅臼側は孤立していたらしい。
3月6日
下山の日は快晴。とはいえ、アプローチで使ったルートは5日分の雪がたっぷりとつもり、最後までラッセル三昧であった。
今回、正直なところクライミングはほとんどしてない。しかし、知床の断崖を海まで下降し、お宝を見つけ、だれも見たことがないであろう景色に出会うことができて、「探検」としては非常に楽しいものであった。
来年は、あれを登りに再訪しよう!