※BC(バックカントリー)で遊ぶには十分な装備、知識、経験が必要です。安全に注意し、レベルに合ったフィールドで楽しみましょう。
台湾・針山登攀敗退→安楽溪・萬里橋溪遡行
2013年4月25日

GWに数日休みをプラスして、台湾の辺境のビッグウォール、針山の登攀を計画した。針山はベースからの標高差1400m、ヘッドウォール部分だけでも800mある台湾最大の岩壁だ。
しかし、台湾滞在の15日間、雨の降らない日がないという記録的に不順な天候に見舞われ、ヘッドウォールに触ることもできずに不戦敗。増水で同ルート下降も難しくなったため、 安楽溪から萬里橋溪に継続し中央山脈を超えて下山する9日間のまさに「沢旅」を行った。
2日目以降は、あらゆる持ち物がずぶ濡れのまま、大半がただの重しとなったビッグウォールギアを抱えて、折れない心が試される山行となった。
(レポート:相川、写真:相川/木下)
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夜のうちに花蓮に電車で移動し、吉林にある今回のドライバーの修理工場?で仮眠。川沿いの悪路を走って、二子温泉まで2、3時間の地点まで車で入ることができた。
台湾らしい深く切れ込んだV字谷の中に入っていく。とはいえ、二子温泉までは一般登山者も入ってくるルートで、それほど難しいところはないはず。
と思っていたら、水量が多いせいか若干緊張を強いられる渡渉もあった。
二子温泉は、河原に温泉が湧いている野湯。すぐそばに素晴らしい天然のキャンプサイトもあり、温泉目的のトレッキングをする人も多いことがうかがえる。
午後から雨が降り出し、夜には大雨になった。このときは、まだ毎日雨が続くとは、つゆ知らず。初日の宿は、大きな岩小屋。平らで乾いていて、焚き火スペースまで屋根がかかっている、後で振り返れば、五ツ星の最高のキャンプサイトだった。
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2日目はゴルジュの中を通過する。難しいところはなさそうだが、水量が多いと厳しくなると見ていた。渡渉個所はなかなかハード
針山が見えてきた
恰堪溪、安楽溪の二俣付近。谷のスケールが大きい。
少し安楽溪側に入ったあたりをBCとする。左岸に針山の大岩壁。右岸に200mを超えるような大瀑布が2本かかる、豪快な景色の場所。左岸の尾根から取りついて、荷揚げにかかる。
荷揚げ途中から見た風景。2本の大滝はいずれも200m~300mはあろうかという、長大なもの。危険個所にFIXを2本張り、水と主要なギアをデポする。
荷揚げから戻るあたりから、大雨になる。このまま2日間閉じ込められることになるとは。
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翌日は朝から大雨。壁に取りつく点目の前の川が濁流となり、岩小屋から出ることもできず停滞を余儀なくされた。しかもこの岩小屋雨だれがひどく、ここに閉じ込められている間にシュラフも含めてすべてのものがずぶぬれになってしまった。
針山の壁も巨大な滝と化しているようで、ルンゼ状の場所のそこかしこから滝が流れ落ちている。中には、500mを超えるような高さから水が宙を舞う、エンジェルフォールか!というようなものも。
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この日も天気は芳しくなかった。相談の末、壁へのトライをあきらめることにした。一昨日デポしたギア類を下し、安楽溪、萬理里溪をつないで西側に降りるルートを選択。右手に針山の大岩壁を望む素晴らしい景色だが、ずぶぬれになったうえにほとんどがただの重しになったギアをたっぷり詰め込んだヘビーなザックを背負っての遡行はなかなかつらい。
この日もやっぱり岩小屋。というのも、夜は毎日雨なのに加え3人でツエルひと張りしかないため、そういった場所を選ばざるを得ない。この日は何とかたき火もでき、雨だれもまだ少なく、ましな夜を過ごした。洞窟暮らしがだいぶ板についてきた。
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朝、久しぶりに青空を見た。この針山の姿は忘れない。
この日は巨岩帯の遡行。メインロープを出すような個所はないが、荷物をおろして人だけ上がり、荷揚げというような個所が数多く、重荷にはつらい。
左手から注ぐ支流に入り、安楽溪の源頭部を登る。すると拍子抜けするほどあっさりと水が枯れ、水を担ぎあげる気力もなく早めのビバークに入る。夜はやっぱり雨。ツエルト一つに3人が入り例によってずぶぬれの夜。
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この日は山越え。道などはなく、けもの道をかろうじてつないで強烈なヤブクライミングだ。結構シビアな個所もあったが、ロープなど出していてはいっこうにはかどらないのでノーロープでガンガン登り、へろへろに。
稜線近くは、屋久島にも全く劣らないレベルの巨木の森だ(木はヒノキ)。笹ヤブに埋まりながら進む。
今回見たなかでも最大のヒノキ。幹回りは10m以上あるだろう。
尾根を越えて萬里橋溪に降り立つ。全長50km近い大渓谷の、最上流部に当たる個所で、すでに40km以上上流だというのにこの水量!標高が2300mもあるせいか、水もハンパなく冷たい。軽く考えていたが、この沢の遡行も一筋縄ではいかなそうだ。
朝こそ若干の日差しも覗いたが、昼からは大雨でずぶぬれ。今日は意地でも焚き火をする!と決めていた。何とか見つけた岩小屋に、焚き火用のツエルトを張る。盛大に焚き火をして夜10時過ぎまで大乾かし大会となった。
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今日は萬里橋溪の最上部を遡行。できれば、山を越えて反対側に入りたい、と思っていたが、大渓谷・萬里橋溪、簡単には通過を許してはくれなかった。美しくも厳しいゴルジュが始まる
水温はひとケタか。泳ぎはもはや拷問。
2500m近い標高だがなかなかのスケールのゴルジュだ。とても登れない滝が続き、巻きを余儀なくされる。
地図上から、本流沿いの等高線が詰まって最後に大滝があるかもと見ていた個所は、13、4段の滝が連続する連瀑帯だった。突入か、手前でビバークか。迷った末取りつくことにする。
やさしい滝が多く、順調に超えていくが、ついに越えられない滝が出てきて時間切れジ・エンド。何とか見つけた岩小屋でビバークするが、雨だれがひどく、昨日乾かしたのがすべてリセットされた。夜は気温7度まで下がり、焚き火もできず厳しいビバークとなった。
今回、スリーピングバッグにポリゴンネスト4×3とポリゴンシールドを持っていったが、ファインポリゴンの性能にはずいぶん救われた。かなり濡れた状態でも保温性を保ち、中で寝ることで着乾かすことすらできた。ダウンのスリーピングバッグのメンバーは、ダウンがただの濡れた塊と化し、さらに厳しい夜を過ごしたようだ。
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翌日は大巻きから始まる。降り立った先で、ようやく源頭らしいやさしい渓相になった。
ようやくたどり着いた萬里橋溪の水源は、萬里池という池、というか山上湖。たっぷりの水を萬里橋溪をに流し出していた。一向に水量が減らない原因はこれか!
萬里池を回り込み、ようやく一般登山道に合流。といっても日本の登山道とはだいぶわけが違う。稜線近くは完全に笹に埋まり、足元の空間の感覚とテープだけが頼り。場合によってはただの川だろう!と突っ込みたくなる水路を腰まで水につかりながら進む。
風雨の中、この稜線歩きは非常に厳しく、「疲労凍死」という言葉が本気で頭の片隅をよぎった。天気が良ければ立ち寄る予定だった安東軍山はとても行く気にならずカット。
アクシデントは厳しい稜線を離れ、下山に入って一息ついたときに起こった。左側が切れ落ちた登山道でメンバーの一人大部がスリップ。そのままガレ場の急斜面を20mほど滑落していった。あと、20mほど落ちたらその先は切れ落ちているという個所で何とか止まった。
手と顔を怪我したが、軽傷だったのは不幸中の幸いだった。
今日は極力標高を下げたい。夕方6時近くまで歩き続け、標高1500m付近まで下げる。一日雨続きで乾いた場所が恋しかったが、そんなものはなく、河原でツエルトに3人で窮屈なビバーク。晴れていれば、とても快適な場所だったのだろうけれど。
<5/3>
朝起きると、またも雨。早々に出発して、萬大南溪の合流点に。そして唖然。
萬大南溪は茶色い濁流と化していた。そして、その合流点に濁流を目の前に数張りのテントと途方に暮れていた台湾人の7人パーティがいた。助けを求められ、一緒に降りることにする。
濁流は、見た目は恐ろしかったが、分流した弱点をうまくつけば、水深はそれほどでもない。ロープをフィックスして台湾人パーティを渡らせていく。僕らが来なかったら、彼らはあと数日は下山できなかったのではないか。
最後は登山道で峠を越える。登山道のつり橋から見た萬大南溪・北溪合流点は増水と濁流でとんでもないことになっていた。
ようやく文明圏!奥萬大国家森林遊楽区のビジターセンターに到着。
儒教の国、台湾の人は恩を何倍にもして返してくれる。下山後の足が懸案であったが、彼らの好意で、下山後の足はもちろん、温泉、豪華なディナー、そして台南までの電車賃まで、すべて手配してくれた。パーティのリーダーは「台湾に来たら、必ず連絡しろ。オレのことはセブンイレブンだと思え」と。