※BC(バックカントリー)で遊ぶには十分な装備、知識、経験が必要です。安全に注意し、レベルに合ったフィールドで楽しみましょう。
北アルプス 黒部 黒薙川北又谷 沢登り 
2009年8月8日

  お盆休み前半は、黒部へ。黒部川の最大支流、黒薙川にあって柳又谷と並び称される北又谷にトライ。増水でさらに手ごわくなった谷で、3日間水と戯れてきた。
天候不順のこの夏。直前まで連日の雨が続いていた。ただ、沢に入るタイミングでは、天気は回復傾向になりそうだ(これがハズれるのだが)。予定通り決行することにする。
ルートは魚止ノ滝手前から入渓、北又谷、吹沢谷と遡行し、吹沢谷右俣を詰めて、相又谷を下降する予定だ。
(レポート:相川 写真:相川 橋本)
小川温泉で、同行のMさんと合流。九州沢旅にも同行したDさんと、finetrackチーム、総勢4名だ。
この先の林道は一般車通行禁止。タクシーを予約して越道峠まで上がり、8時に峠を出発した。
地図では道がないが、藪が切り開かれ、立派な道になっている。この道の延長と思われる部分を帰りにも横切ったので、初雪山辺りまで、道を開いているのではないかと推測される。
標高1030mのコルから、北又谷に向かって下降。このコルは赤布が付いていたが、しっかり地図で現在地把握をしていないと見過ごすかもしれない。
 
  この沢は、下降路としては最適。一度もロープを出すことなく、北又谷に降り立った。ただし、普段は枯れていそうなこの小さな沢にも、水が流れており、この先の水量には不安を感じさせられた。
谷に降り立ち、装備を整える。今回も、フラッドラッシュスキン+フラッドラッシュに加え、カヤック用のパドリングジャケットを上に着用した泳ぐ沢登りでのおすすめレイヤリングを使用。さんざん泳いだが、寒さをあまり感じることなく遡行することができた。
雲の合間から、日が差し始めていた。ただ、3日間で日が差したのは、結局この瞬間だけだったのだが…
水は笹濁り状態で水量は、やはり多いようだ。何のことはないちょっとした徒渉でいきなりスクラムを組まないと持って行かれそうになり驚く。
 
  間もなく、魚止ノ滝。一時期、1m程度まで低くなってしまっていたというが、3~4mの高さまで回復しており、水量が豪快でなかなかの迫力だ。左岸側のルンゼを一段上がり、フィックスロープを張って微妙なトラバースで越える。
落ち口をロープを付けてダイブして徒渉。一段上の2m滝が、またすごい状態だ。普段は2条になっているようだが、真ん中の岩を完全に流れがポアオーバーして太い一つの流れになり、釜は真っ白の洗濯機状態。  
  思い切ったダイブで白濁した流心を越え右岸のエディへ。こちら側からは、簡単にへつって越えることができた。
右岸から落ちる裏定倉谷の滝を見ながら、白濁した流れをへつって越えていく。  
  北又谷の名物の一つ、大釜の滝だ。
過去に死亡事故も起きているというこの滝、増水でさらに強烈になっている。狭められた流れを水が暴れながら流れおち、釜は波立ち巨大な洗濯機と化している。弱点は、滝横のカンテもしくはその左の凹角か。
左手奥に回り込み、ロープと、一つだけ持ってきたPFDを身に付けてトライしてみる。流れは反転流とは思えないほど強烈。あっという間に凹角の手前まで流され、渾身の力で泳ぐが、ボイルが強烈で凹角に入ることもできない。カンテに近づくなどあり得ない状態で、ロープで引きもどされる。
3人が交代でトライするも、凹角にかろうじてタッチできたのみで、登れる状態ではなかった。あきらめて、右岸側ルンゼを高巻くことにする。
 
  恵振谷を右に見て、本流は左にカーブ。やはり大釜を持ち、左右の壁が門の様に立ちふさがる又右衛門滝に突き当たった。
瀑心の数メートル右に、弱点になりそうな部分が見えるが、この水流では取りつくのは無理だろう。かなり右手の方から登り、バンド上の部分をトラバースするしかないか。
釜を泳ぎ、フックを掛けて一段、更にカムを掛けて一段上がる。フックとカムが1回づつ外れて2度ドボン。カムの効きがイマイチ悪いので、ハーケンを打って乗り換え、ひと息。さてこの先がリスが乏しい。フリーでも行けそうに見えるが微妙。いろいろ探っているうちに、ハーケンが先っぽだけ決まったので、あぶみを掛け、バンドに這い上がった。バンドは幸いそれほど困難はなくトラバース可能で、落ち口付近で荷物と後続をフォローする。  
  更に、釜を持った滝を3m、1m、2mと続けて越えるが、いずれも左岸側から登れて、なかなか面白い。
ゴルジュはその先で狭まり、強烈な流れとなる。4人が電車ごっこのように連なり、それぞれ前の人を支えながら、じりじりと前進。なんとか突破した。  
  流水との闘いはなおも続く。2m斜瀑を越えた先で、ふたたび強い流れに阻まれる。水中を行くしかないが、今度は流されたら、斜瀑にたたき落とされタダでは済みそうにない。
まず、左岸側のわずかなバンドを少したどり、カムをセット。滝までは流されない保険を掛けてから、スクラムを組んで前進する。
そろそろ、ビバークサイトを探したいが、ゴルジュは続き、河原は全く見当たらない。
今回の天候を考えると、ゴルジュ中のビバークは避けたいところだ。
谷は大きく右に蛇行。その先の細い水路は、一面真っ白でとても泳げる状態ではない。
流心を飛び越えるようにダイブして、右岸に取り付き、へつりに挑戦。ハングした部分でドボンしてしまうものの、空身のメンバーがトライして突破に成功。
 
  更に急流の淵をへつり、3m滝を左岸側の岩場から越えたところで、漸く悪場は終了。しかし、増水で水没したのか、相変わらず河原が見つからない。どうにもならない場合の保険ビバーク地に目星をつけつつ、結局適地が見つかるまでそのまま1時間以上歩き、最後はヘッデン行動となった。
追い打ちをかけるように、ようやくたき火が軌道に乗ってきたところで突然大雨になる。ずぶ濡れのまま寝袋に入る散々な夜となった。
疲労の激しいメンバーもいたが、フラッドラッシュスキン+フラッドラッシュのレイヤリングは、この状況でも体力の消耗をかなり抑えることができた。
【8月9日 遡行二日目】
翌朝、起きてみると、雨は降り続いていた。
水位は、減っても増えてもいない。今日も気の抜けない遡行が続くだろう。
ミズカミ谷出合いの滝を左に見た後、中瀞と呼ばれるゴルジュに入る。
 
  通常簡単に通過できるところのようだが、今日の水量ではなかなか歯ごたえがある。場所によっては「電車ごっこ」を使用して突破していく。
いくつかの淵と滝をこなし、前方に現れたのが迫力のある白金の滝。
右手奥のチムニーが弱点になりそうだが、釜の水流が強く、とても取りつけそうにない。仕方ないので、右手から巻く。ロープも使わず、小さく巻くことができた。
 
右手から大きな支流、漏斗谷との出合を過ぎると、水量はだいぶ落ち着いた。これでだいぶ遡行は楽になる。
このあたりは、「長持淵」と呼ばれるあたりと思われるが、水流の迫力はだいぶなくなり、楽しく通過することができた。
 
  最後の悪場になるであろう、三段ノ滝(写真はおそらく二段目)。できるだけ直登してやろうと対峙したが、残念ながら、弱点となるクラックがやはり釜の水流が強く、取りつけそうになかった。
左岸側へ一段目落ち口のちょっと緊張する徒渉をこなし、リッジからルンゼを登って高巻く。途中、ズルズルのスラブや、垂直に近い木のぼりがあり、結構悪い巻きであった。最後はガレ斜面を30m懸垂で谷に戻った。  
  いくつかの淵や小滝をこなし、3m滝の右壁を快適なフリークライミングで越すと、黒岩谷出合であった。
今日はだいぶ時間にも余裕があり、ここからしばらく釣り上がってみることにする。
ところが意外にも、岩魚は餌に全く見向きもしない。猿ヶ滝の釜で、ヒットさせながらばらしてしまった尺オーバーの1匹以外、アタリすらなかった。
猿ヶ滝10mは、本流にかかる滝では一番高さはあるが、左岸側から容易に巻くことができる。懸垂で降りた先の淵と小滝を越え、間もなく吹沢谷出合であった。薪も豊富な良いビバークポイントだ。
手早くタープとシェルターを張り、食料調達組と、焚き火組に分かれて準備する。
 
  相変わらず夜もずっと雨。しかし今日はタープを張ったおかげで雨もあまり気にならず、焚き火あり、岩魚ありの楽しいビバークであった。
【8月10日 遡行三日目】
3日目もやはり雨。結局3日間天気が良くなることはなかった。
最も、この先の部分は、水量を心配することは、ほとんどないだろう。
今日注意しなくてはならないのはルートファインディング。まずは1030mの二俣を目指す。出会いから、二俣までは傾斜もなく、全く容易で1時間で到着。ここからは右俣に進路を取る
 
  次第に傾斜が出てくるが、快適に登れる。1180mの二俣を左に取り、すぐ先の三俣の真ん中の沢に入る。あとは稜線までひたすら詰め上がるだけだ。
次第に源流の雰囲気が強まってくる。途中の脆い7m滝でロープを出したほかは、問題となる場所はなく、大した藪こぎもせずに3時間弱で相又谷のコルに到着した。稜線上にはきれいな道がありコルにはなぜかテントがひと張り。越道峠から続いている道を、開拓する人のテントか?  
  相又谷、下降を開始。標高1382mのコルから、標高800m付近までは一気に高度を下げる。
どんな大滝が出てくるかと、ドキドキしながらの下降であったが、意外にもほとんどの区間はフリーで下ることができ、一か所40mの懸垂で滝を3つまとめて降りただけで済んだ。
高度感を感じる、気持ちの良い下降。  
  800m付近まで下降すると、傾斜は落ちてくるが、今度は次々と現れる堰堤に苦しめられることになった。幸い、懸垂下降支点となる木には事欠かない。
標高500m付近で、突然堰堤工事の現場が現れた。これ以上に堰堤を増やさなくても、と思うがおかげで林道に上がれるのも事実。ここで下降を打ち切り、林道を下ることにする。  
  まとわりつくアブをたたきつぶしながら、小川ダムに続く道を歩いていった。

入下山口の小川温泉は、400年近く前に開かれた名湯。充実した疲労感を、ゆったりと癒すことができた。

「女性的」と形容される北又谷だが、増水で滝は暴れ、トロは急流に変わる、ハードな遡行となった。この山行を安全に終えることができた、力量のあるメンバーに感謝。