※BC(バックカントリー)で遊ぶには十分な装備、知識、経験が必要です。安全に注意し、レベルに合ったフィールドで楽しみましょう。
九州・大分 由布川渓谷 沢登り
2009年7月18日

  7月三連休は、本州エリアの悪天候を避け10時間のドライブで九州へ遠征。第一弾は、由布川渓谷だ。
何の変哲もない農村風景の中に深く穿たれた大地の裂け目。それが由布川渓谷。由布岳と鶴見岳の鞍部に源を発する由布川は、この場所で長さ12kmにわたって地の底を行くような逃げ場のない極めて遡行困難なゴルジュを形成している。
幻の滝、みこやしきの滝を越えて完全遡行はなるか。
(レポート:相川、写真:相川、橋本)
いろいろな意味で、この谷中でビバークはしたくない。朝、まずは本日の出渓地点と目している由布川神社付近で情報収集。たまたま神社を訪れていた、由布川渓谷の写真撮影をライフワークにしているという地元のカメラマンに話をうかがうことができた。この当てにしていた出渓地点は、道が崩壊して使えないこと、代わりに少し先の堰堤から脱出ができることなど貴重な情報を手に入れることができた。この渓谷に通い続けている彼も、まだ由布川渓谷の核心、みこやしきの滝は見たことがないという。  
  入渓は来鉢橋から。このあたりは何の変哲もない農村を流れる川に見える。
歩き始めてすぐに、両岸が切り立ち始め、時折泳ぎを余儀なくされるようになる。しかし…水質が悪い。
両岸から落ちてくる小さな滝は、生活排水や農業排水がかなり含まれているようだ。渓谷を一歩出れば普通の農村だけに仕方がないところではあるが、清流を遡る沢登りしかしていないので、正直きつい。遡行内容的にも歩きと泳ぎのみで単調であり、メンバーみな無言で黙々と歩き続ける。
水質の悪さは、田代大橋を越えるあたりでピークになり、その後は水量も増して徐々にマシになる。前半はそれほど見るべきところもないので、遡行を楽しむなら田代橋付近(田代大橋の手前の橋。田代大橋からは入渓できない)からの方がお勧めだ。
本流に小さな堰が設けられているあたりで、側壁に本流と並行するような形で人が一人通り抜けられる程度のトンネルが続いているエリアがあった。人工物のようにも見えるが、いったい誰が何のために作ったのか不思議な構造物だ。答えを知っている人がいたら、ぜひ教えてほしい。  
このあたりから、小さな滝なども出始め、遡行はようやく楽しくなってくる。  
  側壁は、いよいよ高くなり、両岸からの支流はちょっとした大滝だ。
壁は、まっすぐ立ちあがるのではなく、ぐねぐねと屈曲しているため、光が谷底まで届きにくくまさに地の底を行くような感覚だ。単独であったら恐怖感を覚えるかもしれない。
おそらく由布川渓谷でも最長の底も先も見えない長い泳ぎ。コーナーを過ぎるたびに、その先のコーナーまで淵が続いていることを思い知らされる。300m以上、連続で泳いだだろうか。PFD(ライフベスト)はこの川の遡行では必須装備だ。  
  やがて、前方で大きな水音が聞こえてくる。本流に掛る初めての滝らしい滝だ。
しかし、70m~80mはあるであろう側壁に全く弱点が見られないこの谷。ちょっとした滝が極めて困難な障害になることは容易に想像ができるだろう。この滝も、高さは2mほど。
しかし、正面も側面も突破はほぼ無理で、弱点は斜めにかかる太い倒木のみだ。当初、倒木にスリングを掛けながら、裏側をアブミを使ってA2で突破することを試みたが、倒木が太すぎて困難。最後は、倒木の割れ目にカムをかまし、ハーケンを打つ沢登りならではの掟破りの方法で突破した。
頭上はるか上に由布川渓谷橋がかかるこのあたりから、簡単には突破を許してくれないチョックストーンや滝が連続して現れ、遡行はがぜん面白くなる。全身突っ張りに、ショルダー、あらゆる手段を駆使し、時にはわずかな岩の隙間を水流に抗って通り抜け、スクイーズチムニーを全身を使って這い上がる。
力量の揃ったメンバーなので、それぞれの悪場はそこを登れるメンバーが登り、各自が装備したゴージュバッグで、後続を引き上げる作戦を採用。スピーディーな遡行ができた。
 
 
相変わらず泳ぎも多く、時には両手を広げれば届くほどの極端な廊下も現れる。水質もかなりマシになり、泳ぐのもそれほど気にならなくなった。
この部分の面白さと困難さは、これまで突破してきた様々なゴルジュの中でも第一級のものであった。
 
  ようやく渓相が落ち着きひと息をつけるようになる。このあたりは、かつて朴の木探勝路という観光路が開かれ、浮かべた筏をたどって観光客が渓谷内を歩けるようになっていたらしい。今は、自然の猛威に前にずたずたになった観光路の跡を見ることができるのみだ。だいぶ下流に引っかかっていた階段は、もともとここにあったものだろう。
現在でも何とか出入渓可能であるが、かなり危険であるのでお勧めできない。
朴の木探勝路跡を過ぎていくつか淵とゴーロを超えると、堰堤がありこのあたりでは唯一の安全な脱出路である階段がかかっている。本日の遡行はここで打ち切り。以降を翌日に持ち越すことにした。
真夏の暑さの中、少しの歩きでMTBをデポしておいた由布川神社に戻る。この脱出路、逆向きに見つけるのはかなり困難だろう。翌日に備えて、しっかりとルートを叩き込んでおいた。
 
【7月19日 遡行2日目】
昨日の、脱出路をたどり、再び堰堤に降り立った。心なしか、昨日より水量が多いようだ。しかも、水がにごっている。
特に雨が降った様子はなかったので、不思議に思いつつも、遡行を開始する。
 
このあたりのエリアは、コケに覆われたうねった側壁が覆いかぶさるようにはるかな高さまでそびえ、両岸からは次々と滝が降り注いでいる。まさに由布川渓谷の核心に向かっている、そう思わせる幻想的な渓相だ。
 
  小さな滝が次々と現れるが、それほど困難さはない。ただし、淵の水の流れは速い。
やがて、前方が一段と暗くなっているところが見えてきた。両岸が、大きくハングし、光がほとんど届かなくなっているのだ。左岸から支流の滝がシャワーのように降り注ぎ、その奥から大きな水音が聞こえる。みこやしきの滝に違いない。
橋本が、まず偵察に出る。支流の滝を越え、滝に近づこうとするが、釜の水流が強くかなり困難らしい。作戦を練るため、手前の浅瀬まで一度戻ったところで、不意に支流の滝の音が急に大きくなり、水量が目に見えて増えてきた。
 
雨の気配はまったくなかったので、一体何が起こっているのか理解ができない。しかし、水かさが明らかに増えてきているのは紛れもない事実。「やばい、撤退だ」この渓谷内での増水はシャレにならない。大急ぎでたどってきたルートを戻り、倒木が山のように積み重なった。広間のような場所まで戻った。ここなら、それなりの増水にも耐えられるだろう。   状況を分析してみる。雨による増水か?天気の状況からは、それは考えにくい。だとしたら、田圃の水を急に落としたか。この場所ならば、それは十分ありえることだ。暫くその場で水位を観察してみる。するとやがて水位は減少に転じ、見る見るうちに10cm以上水位が下がった。にごっていた水も元に戻り始めた。少なくとも天候急変による水位上昇の可能性は、なさそうだ。再び、先に進んでみることにした。
  改めて、みこやしきの滝と対峙。支流からの滝はだいぶ細くなり、釜の水量も落ち着いた。これならトライできる。まずはじっくりと滝を観察してみる。高さは思ったより低い。参考にした資料は、6mと書かれていたが、目の前にある滝は3~4mというところだ。弱点になりそうなところは2つ。一つ目は数m手前の右岸側に、直上する途切れ途切れのリスがある。3mほど上がれば、右上するリスに乗り換えることができ、確実に落ち口上に達することができる。ただ、このルートは途中、完全なブランクセクションがあり、1,2本ボルトを埋める必要がありそうだ。
もうひとつは、同じあたりから、緩やかに右上するクラックをたどるルートだ。ただし、このリスは落ち口下で終わっており、そこから落ち口に本当に這い上がれるか、確信は持てない。
できればボルトは使いたくはなく、直接右上するルートを試すことにした。泳ぎながらカムを決めて這い上がり、さらにカムとナッツで数メートルトラバースする。やがて、クラックは完全にリスになり、そこからはハーケン連打でアブミトラバースする。落ち口下まで達したところで、手を伸ばすと何とか落ち口まで届いた。幸いガバで一気に落ち口まで這い上がった。  
  2人がフォローして、落ち口のテラスに全員が集合。しかし、その上の滝を見て一同声を失った。
みこやしきの滝から、トユ状に水路が延び、その先にもうひとつ滝がかかっていたが、こいつか半端ではない。3m以上の高さで完全にハングし、側壁はつるつる。さらに、その先も急傾斜のトユ状の溝を水が勢いよく流れ、大きなチョックストーンがその溝にはまっているのだ。資料では「小滝」で片付けられていた滝と思われるが、みこやしきの滝が低くなった代わりに、こちらが成長したのだろうか?
正面突破は到底無理。考えられるルートは、みこやしきの滝落ち口からすぐ左岸の壁を数メートル上がり、そこから水平に延々トラバースしていくことくらいか。一度撤退したことで、時間も押しており、ここまでの難しさは想定していなかったので、ギアなどの物資も不足だ。
残念ながら、今回はここで撤退とすることにした。
 
  頭上を振り返ると、はるか上に巨大なチョックストーンが一つ、挟まっているのが見えた。
みこやしきの滝は飛び込みで一気に下り、遡ってきたルートを戻る。機会があれば、もう少ししっかりと準備をして、この先にトライしてみたい。